1.痛みとは

人生の中で誰もが何らかの痛みを経験していると思います。頭痛、胸痛、腹痛、けがの痛みなど様々な痛みがあります。
痛みは脳の中で感じる一つの感覚です。そして痛みという感覚は、たいていは不快な感情を伴います。また「痛み」は身体や心から発せられた警告でもあります。
例えばけがをしたときや骨折したときの痛みは「からだ」から発せられた警告信号です。先天的に無痛の人などは、けがをしてそのまま放置してしまうと傷がますます悪化することがあります。
一方仕事の緊張や人間関係の悩みなど精神的なストレスで起こる胃痛などは「こころ」から発せられた警告信号です。もしストレスがたまった時に胃痛や頭痛などの警告がなければ、心が疲れ切ってうつ病などの心の病気になることがあります。
このように痛みは様々な状況で起こるため、身体や心の警告に早く気づくことが大事です。特に現在のようなストレス社会では、大人も子供も原因不明の痛みを感じている場合があり、放置しないで早く対応することが大切です。

2.痛みのメカニズムについて

たいていの痛みは、身体の中の組織が傷つくことによって起こります。
例えば転んで膝をすりむいたとします。すりむいた傷の刺激は最初に膝にある侵害受容器に作用します。侵害受容器は身体の様々な部分に存在し、痛みの刺激を受容し、痛みの情報を電気信号に変換します。
その後電気信号は神経の中を伝わって最終的には脳に伝わり痛みを感じます。痛みの刺激が脳に伝わると、脳は不快を感じるために身体の中では自律神経のバランスが崩れます。自律神経は我々の意志とは無関係に働いている神経で、交感神経と副交感神経に分類されます。
交感神経は「緊張」ということに大きな関わりを持っており、いらいらしたときなど活発に働きます。交感神経が優位に働くと、血管は収縮し血流が悪くなります。一方副交感神経は「リラックス」ということに大きく関わっており、食事や入浴時などに活発に働きます。
副交感神経が優位に働くと血管は拡張し、血流はよくなります。つまり脳で不快な痛みを感じると、ストレスを強く感じ交感神経が優位に働きます。その結果身体の中の血流が悪化し、組織の中の細胞は酸素不足になり、プロスタグランジンという物質が産生されるようになります。このプロスタグランジンという物質が痛みの原因物質の一つです。
しかしながらプロスタグランジンは血流を良くする働きがあります。身体の回復に働く物質でもあります。非常に興味深い物質ですね。

3.痛みに対する治療方法

痛みが起こったとき、病院では様々な鎮痛剤を処方します。
鎮痛剤の多くが痛みを引き起こすプロスタグランジンを取り除く薬剤です。代表的な薬剤がロキソニンやボルタレンです。これらの薬剤を内服すれば痛みはある程度軽減されますが、同時に血流を遮断することにもなります。けがなど組織が損傷すると痛みが起こります。このとき身体の中では組織を修復するためプロスタグランジンがたくさん製造されます。
しかしながらロキソニンやボルタレンなどの内服薬を長期に服用すると、プロスタグランジンが減少し身体の回復する働きを抑制してしまい、結果的には慢性的な血流不全を起こし身体の自然な回復を止めてしまうことがあります。
一方骨折などで急性期の強い痛みが持続するときはロキソニン、ボルタレンなどの鎮痛剤が必要になることがあります。最近の痛みの研究の中で、脊髄の後角細胞が痛みを記憶する働きがあることがわかっています。記憶といえば脳の中の海馬が有名ですが脊髄の後角も記憶に関係するのです。そして一旦痛みという感覚を記憶してしまうと組織が修復されても、脳で痛みを感じ続けることがあるのです。これは、人間の中の神経回路に問題が生じているわけです。従って薬剤の使用はなるだけ避けることが望ましいですが、時には鎮痛剤の使用が必要になります。
痛みの感覚には不快という情動的な感覚も関与しているため最近では脳での不快な感覚を軽減するためにモルヒネ様の物質や抗うつ剤などが鎮痛剤として使用されています。但しこういった薬剤は様々な副作用があるために慎重に投与されるべきです。皆様心身の発する声にしっかり耳を傾けて不安な痛みがあるときは我々に相談してください。

参考文献

医療が病をつくる 安保 徹 岩波書店
痛みの考え方 丸山 一男 南江堂