熱中症とは

我々人間の体の中では、運動や体の様々な営みにより常に熱が産生されます。
日本の夏のように高温多湿な環境下では、異常な体温上昇を抑えるための、効率的な体温調節機構が身体に備わっています。
夏の暑い時期には自律神経を介して末梢の血管が拡張し、皮膚に分布している多くの血液から外気への放熱により体温を下げることが可能です。
また汗をかくことで汗の蒸発による気化熱が体内から奪われることで体温は低下します。汗腺から出る汗も自律神経系で調節されています。
我々の体内には脳・心臓・肝臓・腎臓をはじめ多くの大切な臓器がありますが、いずれも血液が供給されて日々の営みが行われています。


このような様々な臓器への血流が皮膚表面に移動し、また大量に汗をかくことで身体から水分や塩分が失われるなどの脱水状態に対して、身体がうまく働かなくなると、筋肉のこむら返りや失神(脳への血流低下)を起こしてしまいます。
そして、熱の産生と熱の放散とのバランスが崩れることで体温上昇が起こります。このような状態が熱中症です。

医療機関への受診が必要な熱中症の症状は?

熱中症をおこす重要な要因は3つあります。
高温多湿・風が弱い・強い日差し・閉め切った室内・エアコンのない部屋などの①環境要因、高齢者や乳幼児、肥満の人・糖尿病などの持病のある方・低栄養・下痢やインフルエンザによる脱水状態・二日酔いや寝不足での体調不良等の②からだの要因、激しい筋肉運動・長時間の屋外作業・水分補給できない状態などの③行動要因の3つです。


熱中症の症状としては軽症なもので見られるめまい・たちくらみ・生あくび・筋肉痛・こむら返り・発汗や頭痛・嘔吐・倦怠感そして重症なものに至ると意識障害・体温40度以上・発汗停止などがみられます。
暑熱による諸症状は人間側の条件により刻々変化します。早期に熱中症による異常を認識して治療につなげることが重症化を防ぎ、生命を守ることにつながります。
従いまして上記症状があり、判断に迷った場合や水分が取れない場合、意識障害がある場合は直ちに救急受診が必要になります

熱中症の予防には何を飲めばよいか?

熱中症では水分とともにナトリウムなど電解質の喪失がある為、ナトリウム欠乏性脱水が主な病態であります。
従いまして水分補給に加えて適切な電解質の補給が重要になります。
熱中症の徴候を認めた際には特に塩分と水分が適切に配合された経口補水液が適切であると考えられています。
経口補水液は発展途上国で乳幼児の脱水症の予防や治療目的でWHO(世界保健機構)が開発したものです。
人間の体の中では小腸内でナトリウムとブドウ糖が1:1で吸収されますが、経口補水液も同様の組成になっています。
わが国では経口補水液オーエスワン(大塚製薬工場)が普及しています。一般的に推奨されている飲水量は高齢者を含む学童から成人が1日500から1000mL、幼児が300~600mL、乳児が体重1kgあたり30~50mLを目安にしています。


一般のスポーツドリンクでも熱中症の予防にはなりますが、スポーツドリンクは塩分量が少なく、糖分が多いことを認識しておく必要があります。
水分のみの補給ではナトリウムが希釈されるために、痙攣の閾値がさがり痙攣が起こりやすくなることがあります。
また味噌汁などもミネラル・塩分が豊富に含まれており熱中症の予防になります。簡単な水分補給としては体重測定を行い、減少分の0.1から0.2%程度の食塩水の補給、つまり1Lの水に1~2gの食塩とさとう大さじ2~4杯(20~40g)の糖分を加えたものが効率よく水分を吸収できる有効な予防になります。

マスクは熱中症に影響を及ぼすのか?

昨年末からコロナウイルスの問題で皆様困っておられると思います。
令和2年5月時ですが、外出時など国民全体がマスク装着が当たり前になっている状況です。
医療機関ではマスクの需要が多く、以前の様にマスクを使用できない状態になっています。


さて暑い夏の時期にマスクをつけることによって熱中症への影響はどうでしょうか?
マスク着用によりマスク内の湿度が上がるために、とくに高齢者などは喉の渇きを自覚しづらくなり、知らないうちに脱水が進行して、熱中症に悪い影響をもたらすことがあるかもしれません。
一方マスク着用で呼吸時の湿度が保たれて、呼吸により失われる水分を抑えられるという考えもあり熱中症に優位という意見もあります。
いずれにしても夏場の時期コロナウイルス対策でマスクを着用しながらも、こまめに水分補給をすることが大切になります。


今年の夏は特に各人が注意して熱中症に対して対応していただくことが重要であると思います。

参考文献

熱中症診療ガイドライン2015日本救急医学会